Re: B1同好会・拾壱ノ宴( No.192 )
  • 日時: 2023/02/09 21:26
  • 名前: てん ◆xNQw.mfGbM (ID: vIPF5IJ4)

187なんか良いなあ^ - ^

じゃあてんもなんか書こうかな(まだ飽き足りぬか)

ホラーテイストで行きます。



茫然自失。眼光の鋭さには狂気めいた何かがあり、睨みつけた大地もゆらゆらと揺れ動くようだ。
まさに一瞬の出来事であった。夜は深く眠り、寒さは一層厳しさを増していた。

その日はごく普通の1日であった、というと語弊があるかもしれない。少しばかり、太陽に雲がかかって、薄暗い日であった。
そう、何か、こう、違和感というか嫌な予感がしていた。言葉では言い表せないような、モヤっとしたような何かを察知していた。

それが大事な事のような気もしたし、どうでもいい気のせいのようにも思えた。

何事もなく日は沈み、夜が来た。
静か、という言葉は似合わない。生を感じないというか、物質的というか、荒廃した村のような寂びしさがあった。たちまち男は不安に駆られた。いつの間にか、自分の知らないビルの海に立っていた。

人通りは多いのだが、人間的なあたたかさは全く感じられなかった。
事前にプログラムされたアンドロイドが黙々と指示を実行している、そんな思いがした。
歩く人々の目は死んでいて、しかし何かを憎んでいるようだった。
人々は何か呟いているのだが男の耳には聞こえてこない。
男は軽いパニックになっていた。
風景は見ているのだが、ピントが合わない。音はしているが、脳は雑音と判断しているようで、認識もできない。

何かに意識を向けようとしてもたちまちぼうっとしてしまう。何かを考える気も起きない。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
男もいつしか人間の、生気ある目を失っていた。
ただマネキンのように立ち尽くしいた。

いつの間にか人々が男を囲んでいた。
何かを呟いている。
男はそれが何かの呪文のような物なのだと悟った。だからといって逃げようとか、隠れようとかいう気も起きなかった。

なんの気力もなかった。

人々が徐々に近づいてくる。その足音だけはしっかりと耳に届き、脳に訴えるようだ。

茫然自失。男にはただ人々を眺める事しか出来なかった。人々の目には狂気が宿っているようであった。数人の手には見たこともない、鎌のような刃物が握られていたが、不思議と恐怖は感じなかった。
ただもうどうにでもなれ、という感じであった。

気がつけば男は倒れていた。もう立ち上がることは出来ない。両手両足はあの人々に刈り取られてしまった。
まさに一瞬の出来事であった。

あの呪文は、金縛りの類だったのだろうか。精神に侵蝕してきて心を蝕み、脳をぼろぼろにされてしまうような気がした。
人間を失わせる呪文ーーー。

男は彼是と考えてみたがやはりどうも頭が回らない。

血はだくだくと流れ、路面を濡らしていた。

あの人々はもういない。

横たわる事しか出来ない男は心臓こそ鼓動しているが、生きているかは不明であった。

男は大地を睨み、自分の境遇を恨んだ。

大地はぐわんぐわんと撓み、最終的に男を飲み込むように歪んでいった。

意識が戻った男は家の中にいた。テレビではニュース番組をしている。「速報、連続神隠し」男はそれに見入っていた。ごく普通の光景だった。ニュースの内容があまりにミステリアスな事と、男の四肢が無い事を除いては…

「ぞうらもしあて」

あの呪文と足音だけが夜の街にこだますのだった。